キャンティ
空はうっすらと曇っていた。


そのせいで蒸し暑い空気がいつもより肌にまとわり付きサウナ風呂にいるみたいにじっとりと汗がにじんだ。


僕はパラソルの下でさっき売店でもらったバナナを頬張った。


「海ってこんなに綺麗なものなのね。」


愛里沙は目を細めた。


バナナを食べ終えた僕は愛里沙の絶賛するコバルトブルーの海に目をやった。


「沖縄には来たことないの?」


「うん。ないわ。おかしい?」


「いや。全然。」


3ヶ月前、僕が愛里沙を沖縄に連れてきたのは彼女にプロポーズをしようという企みもあった。


出会ってまだ1年弱だが、もう何年もずっと一緒に生きてきたかのように僕らはとても息が合った。


「足元に魚が寄ってくるんだもん!びっくりしちゃった!」


ホテルに戻っても愛里沙の興奮は冷めやらない。


それほど酒好きでもない彼女が自らワインをグラスに注ぐ。
今日はかなり舞い上がっているようだ。
< 9 / 61 >

この作品をシェア

pagetop