少年殺人鬼(6p短編)
 そこから始まる、一方的な虐殺。
 由加は既に死んでいるのだから、この表現は正しくない。
 だが目の前で繰り広げられている光景を、他に言い表す言葉が見付からない。

 奪い返そうにも俺の腕は彼女をすり抜け、無惨に引き裂かれ肉塊になっていく様を見守るしかない。
 血は出ないが、乱暴に千切られた断面は瑞々しい赤とピンクで、彼女の鼓動まで伝わってきそうだ。
 毟られ、剥がされ、放られた彼女の肉は、少し経つとドライアイスのように空気に溶け込む。

 彼女が無くなってしまう。

 どれだけそうしていただろう。
 辛うじて顔が判別できる最後の瞬間、さっきまで苦痛に表情を歪めていた由加が微笑み、死を受け入れる。
 泣き崩れる俺の前で少年は黙々と作業を続け、とうとう、最後の肉片が揺らいで消えた。


「何で……何でだよ、幽霊でも何でも良かったのに。
 あんなに苦しんでたじゃないか、泣いてたじゃないか。
 どうしてこんな惨い事ができるんだ」

「そんなの知らないよ、僕は触れるし聞こえるけど、見えないから」


 一仕事終えたとばかりに、満足そうに息を吐く少年。
 どうして彼女ばかりがこんな目に。


「こんな惨い事されても、俺に笑いかけてくれるような……本当に優しい子だったのに」


 目の前の少年に殴りかかるだけの気力もない。
 ただただ別れが悲しくて、さっきまで彼女が横たわっていた地面を擦る。


「ああ、アンタは見えるけど聞こえないのか」


 彼女に、本当に好きになったと伝えたかった。
 遠慮がちな彼女の声でもう一度、「知明くん」と呼んで欲しかった。

 自分の体内にこんなに水があったのかと思う位、涙が止まらない。


「あの女、ずっとアンタに言ってたよ。
 早く死ね、って」






end. 20090906
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