第六感ヘルツ
11,お手を頂戴
ぼんやりと過ごしていたエム氏の元に、ある日、友人のアール氏から電話があった。
「どうした、珍しいな」
「ああ、久しく連絡せずに済まない」
「いいさ、お前も多忙だろう」
エム氏はさして気にせず笑って言った。
アール氏は有名な科学者であり、一介サラリーマンのエム氏から比べれば確かに多忙に違いなかった。
エム氏の気遣いに気をよくしたのか、アール氏は嬉々として本題を口にした。
「お前に頼みがある」
「何だ、俺はもう只のサラリーマンだぞ」
「そう言うな、大学では共に肩を並べて実験に明け暮れた仲じゃないか」
「実験の手伝いか?それこそ……」
「お前だから頼むんだよ」
才能あるアール氏と学力こそ高かったが花開くことのなかったエム氏。
その些細であり最大の違いを知っていたからこそ、エム氏は少し気をよくした。
「まあ、それだけ言うなら今回だけ」
「ありがとう、礼は弾むつもりだ。そこでだが……」
そうして約束の日、エム氏はアール氏の元へと足を運んだ。
「やあ、よく来てくれた」
「それは構わないが、あれはどういうことだ?」
電話の最後にアール氏が言った言葉、これがエム氏には引っ掛っていた。