第六感ヘルツ

13,美食家達の晩餐




食卓にはたくさんの皿が並んでいた。
食卓を囲む椅子にはたくさんの人が座っていた。
白い皿には一切の曇りなく、用意された銀の食器にもまた、一切の曇りはなく、皿に置かれたナプキンもまた、白く綺麗なものだ。
彼らは美食家であり、そしてまた、極めて偏食家でもあった。
食卓を囲む客用椅子は全部で十四個あり、現在そこは全て埋まっている。
ただ一つ、主人の椅子を除いては。
彼らは知っていた、主人が登場したときが史上最高の美食会への開幕であり、そしてまた、史上最大の自分の正念場でもあることを。


「やあ皆さん、ようこそいらしてくれた」


ようやく登場した主人は柔らかい笑みを湛え、いかにも紳士的な容姿をしていた。
この主人もまた、大変な美食家として有名である。
美食家が集めた名だたる美食家達。
その美食家達が、全てを捨ててでも食してみたい最高の食材が、もうすぐ目前に現れる。
彼らは期待に胸を膨らませた、と同時に、否応なく動悸は高鳴った。


「招待状には全てを記載しました。つまり、ここにいる全員が、それを承知で席に着いているということです」


ごくり、と誰かが唾を飲んだ。
彼らの視線はひたすらに主人を射抜き、誰一人として、口を開く者はいない。


「さあ始めましょう。全員、ナプキンを広げてください」


緊張の面持ちでナプキンを広げる美食家達を舐めるように主人は見守っていた。
長く伸びる食卓、主人の向かって右側三番目に座っていた美食家が、ぱさりとナプキンを落とした。
彼の目は見開き、手は激しく震えていた。


「あなたでしたか──さあ、晩餐の始まりです」


ナプキンを落とした美食家は激しく抵抗を試みたが、どん、という一発の銃声により、ようやく食卓には静けさが訪れた。


「失礼しました。さあ、晩餐の始まりです」


同じ科白を繰り返し、運ばれていく美食家に、主人は目を細め笑った。



13,美食家達の晩餐【エンド】
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