第六感ヘルツ
26,薔薇になれなかった少女
「はーい、じゃあ今度やる劇の配役を決めまーす」
年増な先生が、襟元のリボンを揺らして言った。
もういい加減無理があるんだから、お嬢系ファッションは卒業したらいいのに。
無難にモノトーンとかがいいのに。
どうでもいいことを考えていたら、隣の山田くんが「はい!」って手を挙げた。
ああそっか、山田くんて先生のことすきなんだっけ?ばっかじゃないの。見る目ない。
「お花の妖精には、松谷さんがいいと思います」
ふうん、松谷さんねえ。
まあ、悪くはないんじゃない?
ぽけーっとした感じがお似合いかもしれない。笑える。
「今度の授業参観でやる劇だからね。やりたい役があったら、自分でも積極的に挙手してね」
年増な先生は、そう言って目尻のしわを深くした。
すきな役、やりたい役、あるにはある。
『百合』とか『すみれ』とかお花の名前が書かれた黒板を見て、『薔薇』の文字で視線が止まった。
あれはあたしね。
このクラスで『薔薇』が出来るのなんて、あたししかいないじゃない。
本物のお嬢様なんだし、髪の毛だってくるくるで目だってぱっちりしちゃってる。
正直、すっごく可愛いんだもの。
「じゃあ『百合』は木下さん、『すみれ』は宮田さん、『お花の妖精』は松谷さん」
委員長が決まった配役を黒板に書いていく。
ああ早く、早く、誰かあたしを『薔薇』に推薦したらいいのに。
やっぱり小学生なんてガキだから、積極的に推薦するのは恥ずかしいのかしら。