第六感ヘルツ
31,泣いていたからです。
泣いていました。
間違いなく、彼女は泣いていました。
見知らぬ彼女はそこでひたすら泣いていて、見知らぬ僕はひたすら眺めていて、ああどうしたら彼女が泣かずに済むのかと考えあぐねているのです。
わかりません。
わからないのです。
わかりませんが、ひたすらそう思っていたのです。
「それでこの見知らぬ男を殺したというのかね」
「はい」
どうしてでしょうか。
わかりません。
わからないのです。
ただ、あの見知らぬ男を殺した僕を見て、見知らぬ彼女は、確かに笑ってくれたのです。
31,泣いていたからです。
【エンド】