さくら。
転校
ざわめいていた教室が一気に静かになる。
こんなのもう何度も経験したことだ。

クラスの担任は、黒板に俺の名前を調度いいくらいの大きさで書いていく。
そう、俺は今日、転校してきた。
もう分かるだろうけど、俺は転校生ってわけ。

「じゃあ浅香。自己紹介を、」

「あ、はい。」

こうしてお決まりの自己紹介タイムに。
クラスの奴ら全員が俺を見る。

俺は一つだけ息をついた。

「浅香沙久良です。女っぽい名前だけど男なんで。」

生徒からひそひそと声がする。
無理もないか。沙久良なんて名前、そうないし。
“さくら”なんてどう考えても女の名前だしな。

担任から静かにしろ、と一喝されると、生徒たちはすんなり黙った。

「浅香はあの席だから。」

「え、どこですか?」

「あいつの隣。おい桜!」

「はい?」

「あ、いやお前じゃない。あいつ。」

そう言って指を指したその先には、華奢な身体の女子がちょこんといた。

「あいつの苗字、桜っていうんだ。」

「そうなんですか。」

まったく何て紛らわしい…
まあしょうがないと思いながら、俺は指定された席に座った。

「あ、あの…、」

「は?」

消えそうな声が何処からかしたかと思ったら、それは隣から発せられた声だった。

「…よろしく、ね」

「ああ、よろしく」

小さな体に小さな声。
おまけに態度までちまちましてるっていうか…。
まあとにかく、俺の桜に対する最初の見方はこうだった。




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