こっちむいて伏見!
…あ、そうだ。
アタシはカバンの中にあるハンカチを思い出した。
これは
あのとき
彼が貸してくれたもの。
2学期になってから、
ちゃんと洗って返すチャンスをうかがってるんだけど。
なんとなくこんな状態で返せずにいたのだ。
「返すん遅なってごめん」
「え?」
不思議そうな顔をする彼。
その態度…、
まさかあの日のこと全部記憶なくしてんのだろうか?
「日本橋に行った時に借りてたやつ!」
そう言いながら再び彼にハンカチを受け取らせようと差し出す。
「えっ?あっ、…ああ…」
なによ、その頼りない返事は。
伏見はアタシからハンカチを受け取りじっと見つめる。
どこの記憶喪失野郎なのよ。