こっちむいて伏見!
こんなベタな展開、ないでしょ、
なんて思うけど。
アタシ、かなりの近眼だし、
そのときは彼のこと、
見えてなかったんだと思う。
「…ってぇ…!」
彼はボソッとつぶやいた。
「あぁ、ごめんなさい」
聞こえたその声に思わずアタシは謝りながら、
ぶつかった拍子に落としたカバンを拾い上げる。
そしてそのカバンの上に乗っていたメガネ。
なに、これ?
こんな黒い縁のメガネ、アタシのじゃない。
だいたい、
カバンがしっかり閉まっているのにメガネだけ飛び出るなんて有り得ない。
メガネを手に取ったまま、
ふとその彼の方を見ると。
彼はかがんで何かを探していた。
「……」
メガネは彼のものだと直感的に思った。
彼もまたかなりの近眼のようで、
落ちた場所がわからず必死になって探していた。
アタシはしばらくその姿を見つめ…。
…ヤバ。
ちょっとこのひと、可愛すぎるんだけど。
アタシは彼と視線を合わせるため同じようにかがんで、
そして彼のメガネを差し出した。
もちろん、精一杯の笑顔も忘れずに。