こっちむいて伏見!
もう、せっかく挨拶してるのに。
アタシはちょっと距離を置いて繰り返す。
「だ、か、ら
深草マリノ、ヨロシク」
「あ、…そう…」
彼はずり落ちたメガネを左手の中指で上げ、
もとに戻した。
ああ、そんな姿も素敵だなあ。
「あ、あのアタシ…」
でも彼はアタシの言葉かけを無視してそのまま横をすいっと通り過ぎて行った。
へ?
ちょ、
ちょっと待ってってば!
アタシまだ話が終わってないんだから。
彼の背中を追いかけて急いで前へ回り込む。
なんでもいいからもう少しだけ何か話がしたくて。
アタシは通せんぼするように両手を広げ、
彼の足を止めた。
「なに?」
「う」
なに、と言われても。
何も思い浮かばない。