眠れぬ森
「私帰る。」

ハルキの腕を振り払ってベッドを降りた。

「ごめん。さっき言ったこと本心じゃない。行かないで。」

ハルキはすばやく私の腕を掴んだ。

痛いくらいに強く。

『行かないで』

って言葉。

生まれて、初めて言われたかもしれない。

「ハルキは、」

「何?」

腕は強くつかまれたままだ。

「私に何を求めているの?」

私はハルキの隣に、静かに座った。

ハルキはただまっすぐに私を見つめた。

何て答える?

私は冷静さを装いながらも、ハルキにこの鼓動が聞こえやしないか冷や冷やするほどに緊張していた。


「癒やし・・・かな。」

ハルキは無表情のまま答えた。

私の鼓動は少しずつ落ち着いていく。

「そ、癒やし。」

ミズキちゃんが妊娠したと告げたときに、おそらく感じた『愛』ではなかったんだ。
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