眠れぬ森
そして、1週間後、タクミが帰国した。

いつものように空港まで迎えに行く。

タクミがそうしてくれって頼んでるわけじゃない、私が迎えに行きたいから行く。

ただ、それだけのはずだったのに、その日は妙に心が沈んでいた。

きっとハルキとのことがあったから。

そういうことがあったって、顔に出さない自信はあるんだけど、やはり後ろめたい。

それが普通の人間の感覚だよね?


「ただいまぁ。」

少し日に焼けたタクミが右手を挙げて出てきた。

「おかえり。」

私も軽く手を振る。

タクミは私の肩に腕を回して耳元でささやく。

「寂しかった?」

そして私は答える。

「全然。」

タクミは笑った。

私も笑った。

これが帰国時いつも言う合い言葉みたいなもの。

相手のことが手に取るようにわかる。

だから楽。

次に、タクミが私のおでこにキスをすることも。

久々の日本で、晩御飯は和食がいいっていうことも。

時差ボケで、うちに帰ったらすぐに疲れて寝てしまうことも。

何も不安なことはなかった。
< 40 / 152 >

この作品をシェア

pagetop