眠れぬ森
こんな夜更けに誰だろう。

「はい。」

不信感を募らせた声で出た。

「起きてた?」

この声は。

「久しぶり、俺。わかる?」

わかりすぎるくらい、わかる声。

ずっと聞きたかった声。

「ハルキ?」

「よかった。わかってもらえた。」

ハルキは電話の向こうで静かに笑った。

「どうしたのよ。電話なんかしてきて大丈夫なの?」

「ミズキは妊婦健診とかで、昨日から実家に帰ってるんだ。だから、どうしてるかなーって思ってかけてみた。」

「どうしてても構わないんじゃない?ハルキにはもう関係ないでしょ。」

変なプライドが頭をもたげる。

冷たい言い方。

「関係なくはないでしょ。数ヶ月前、短い時間でも愛し合ったんだから。」

愛し合った?

ばかばかしい。

私はハルキのお兄さんのフィアンセ。

ハルキは彼女に子どもができたっていう状態で。

よくもそんな簡単に「愛」だなんて言葉を使えるもんだわ。

思わずため息がこぼれる。

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