眠れぬ森
「音楽でも聴く?」

ハルキはラジオをつけようとした。

「いい。かけないで。」

私は車の中で移りゆく景色を眺めながら色んなことを考えるのが好きだ。

音楽は聞き出すと、邪念が入って思考の邪魔になる。

そう言うと、ハルキは苦笑した。

「相変わらずだね。ミクって。運転放棄して抱き締めたくなる。」

「やめてよ。私はまだまだやり残したことあるんだから。」

「そうだね。俺も、まだ言い残したこともやり残したこともいっぱいある。」

「例えば?」

「これからミクに伝えようとしていることと、ミクと抱き合うこと。」

「まだ言ってるの?私はもうハルキには抱かれない。」

自分で言いながら、心の中で「うそ」とつぶやいた。

私は、この期に及んで、まだハルキを求めていた。

この道の向こうにある波の音を聞きながら、ハルキに抱き締められたいと思っていた。


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