眠れぬ森
30分ほど走ったところに海浜公園があった。

海辺のそばにハルキは車を停めた。

さすがにこの寒さじゃ外に出る気はしない。

「暖房がんがんに入れるから、少しだけ窓開けてもいい?」

ハルキは言った。

「そこまでして海の音が聞きたい?」

私はしかめっつらしながらも笑って聞いた。

「うん。ミクと二人で聞きたかったんだ。」

「ふうん。」

私は暗い海の方に視線を向けた。

悪い気はしなかった。


ハルキは私に遠慮してか、ほんのわずかだけ窓を開けた。

すぅっと冷たい空気が私の頬を刺した。

その箇所だけが、妙に現実味を帯びている。

そして、さざ波の音が静かに車中に広がっていった。


海辺には、私たちの他に何台か車が停まっていた。

きっと車の中では恋人達が愛し合ってるんだろう。

それ以外、こんな場所に来るなんてあり得ないもの。

きっと、私たちも。


でも、まずは話をしなくては。

「ハルキは、もうすぐ父親になるわけでしょ?」

「うん。まぁそんなとこ。」

「どうして、そんな状態で私とそういう関係を持てたわけ?」

「えらくこだわるね。」

「そりゃそうよ。私も一応女性だもの。もし私が妊娠したとして、タクミにそんなことされたらきっと許せない。」

ハルキは少しだまった。
< 82 / 152 >

この作品をシェア

pagetop