眠れぬ森
「一番最初に愛し合った日に、ミクは運命の話をしたよね。」

「うん。したわ。」

「どんなことがあったって、別れる相手もあれば別れない相手もいるって。」

「まぁ、そういうようなことだったっけ。」

「だから、とりあえずはその時その時の自分の気持ちに正直に生きて、待ちかまえてる運命を受け入れようって思った。」

「でも、ミズキちゃんは妊娠してたのよ?状況にもよるわよ。そんな状況で行き当たりばったりの行動はあまりにも軽はずみすぎるわ。」

ハルキは海をじっと見つめた。

「状況?」

「そう、ハルキは何もかも運命のせいにしすぎ。」

「状況によって、正直な言動を控えるのは、運命じゃなくて単なる意思だよ。」

「意思?」

「俺は、ミクから運命の話を聞いた時、色んな体裁や立場や思いなんかをとっぱらった素直な気持ちで挑んだ時に、本当の運命にたどりつけるんだって理解したんだ。」

「例え子どもができていたとしても?」

「そう。」

私は思わず長いため息をついた。

「かなりがっかりだわ。」

ハルキは私の方を向いた。

「どうして?」

「私はもっとハルキは大人だと思ってた。状況や立場を考えて行動するのは、運命以前の問題よ。」

そして、また頬に冷たい空気が刺さった。
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