君がいた風景
「あの…」

春人が声をかけると、彼女はちらっと春人を見てまた絵を描きだした。


「あの…すみません。また来ちゃって」

「別に…」

「えっ…」

小さい声ではあったが、彼女が口を開いたことで春人の心臓は大きな音をたて始めた。


「別に…来るななんて言ってない」

「えっ?あ、うん…でも迷惑だったかなって…」

「迷惑なんて言ってない」

「あ、うん…そ、そうですよね…じゃ、じゃぁまた来ていいですか?!」


ぎこちなく春人が言うと、彼女は春人のほうを見て微笑んだ。


「勝手にすればいいのに。変な人」

「ホント?!ありがとう!!」

初めて見せる彼女の笑顔で、春人の顔は沸騰寸前だった。


「これじゃ、りんご拓磨と同じだな…」

「え?りんご拓磨?」

「あ、いや…こっちの話です!!」

「独り言はやめてよね」

「はい…あの…お願いがあるんだ。写真…撮らせてくれないかな?」

「写真…」

「うん、君を初めて見たときからこの風景を撮りたいって思ってたんだ」

「写真なんて私…」

「そのままにしててくれればいいんだ!ポーズとかはいいからさ」

「じゃぁ、勝手に撮ったら?」

「いいの?!」

「勝手にすればいい。私は何もしなくていいんでしょ」

「あ、ありがとう!!」


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