君がいた風景
無愛想ながらも、彼女は写真を拒まなかった。


春人は少し離れてカメラを構える。


レンズを覗くと、そこには期待以上の風景があった。


春人は鳥肌が立つようななんとも言えない気持ちになる。


なんて…優しい…柔らかい…美しい風景なんだろう…。


春人の心臓は高鳴ってゆく。


カシャッ!カシャッ!
カシャッ!カシャッ!


無我夢中で写真を撮り続けた。


しばらくすると、時計を見た彼女はバックから何かを取り出した。

ゆっくり立ち上がると、川に何かを流した。


クッキー…?


その彼女の表情はとても優しく、でもなんとなく寂しげだった。

春人は気になる光景を目の前に、何も聞かずただ立っていた。


「じゃぁ…」


そんな春人を気にせず、彼女は荷物をまとめて立ち上がる。


「私、帰るね」


「あ、うん…ありがとうございました。写真、撮らせてくれて…」


「別に。はい、これ」

彼女は春人にさっき川に流したクッキーの残りを差し出した。

「えっ?」

「3時のおやつ」

「あ、ああ…ありがとう。」

「じゃぁ、またね。」

彼女は手を振りながら春人の横を過ぎて行った。


「あっ…私、真奈美。じゃぁね、春人くん」

彼女は突然振り返って一言言うと、サラサラの髪を風になでられながら帰って行く。


「真奈美さん…」


春人は、真奈美が自分から名乗って来たことと、自分の名前を覚えていてくれたことが嬉しくてたまらなかった。


真奈美との距離が一気に縮まった気がした。




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