君がいた風景
「あの…真奈美さん?」


「……て…」


「えっ?」


激しい雨が真奈美の小さい声をかき消す。


「……てっ…」


雨の音と共に川の流れも激しくなっていく。


「こんな日にこんな所にいたら危ないですよ、帰りましょ?」


春人はゆっくりと穏やかな口調で言った。


真奈美は荒々しい手を止めると、勢いよく立ち上がった。


「ほっといてって言ってるでしょ!?!?」


傘も絵もほおり投げて真奈美は叫んだ。


「真奈美さん…」


唖然とした春人を見て、真奈美はハッとして投げた絵のほうへ走った。


「うっ…くっ…もうっ…ダメだ…」


激しい雨でぐしゃぐしゃになった絵を見て、真奈美は泣きじゃくった。


春人はずぶ濡れの真奈美に傘をさしながら、絵を覗いた。


雨に濡れて、何の絵なのかよくわからなかった。


「ひっくっ…ごめんね…ハル…」


「え…?真奈美さん?」


春人は苦しそうに泣く真奈美の背中をさすった。


「何があったかわからないけど…俺…真奈美さんの力になりたい…」


真奈美は一瞬弱々しい顔で春人を見ると、すぐに険しい顔に変わった。


「だったら…私を殺して…」

「………」

思いがけない言葉に春人は言葉を失った。


「もういい…あんたに何ができるっていうの!ふざけないで!!」


真奈美は春人を突き飛ばして、泣きわめきながら走り出した。
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