君がいた風景
「ばか…変な冗談やめろよ…」


「冗談じゃないよ、春人…」


「うそ…だろ…?」


思い返せば確かに、遺書とサンダルだけ残されていて、遺体は見つからなかった。


それでも春人はすぐには信じられなかった。


「今は、東京に住んでるらしいよ。だから…てっきり春人にも会ってると思ってた」


「なんで、なんでそんなこと知って…」


「この旅館に一度来てくれたんだ。あの時は迷惑かけてごめんなさいって」


春人はその場に泣き崩れてしまった。


「俺は…俺は…本当に真奈美さんのことを…愛していたんだ…」


「うん、わかってるよ」


拓磨はしゃがんで春人の背中に手を添えた。


「この6年間、他の誰も…愛せなかった…」


「うん…」


「生きてるのか…真奈美さん…」


「うん…でもゴメン、連絡先…知らないんだ…」


拓磨は残念そうに涙ぐんだ。


「でも…きっと春人と真奈美さんは会える。そんな気がする。」


「拓磨…」


「二人は運命の二人だって思うよ」


「ありがとう、拓磨…本当にお前とまた会えて良かった」


「へへ、照れるだろ」


拓磨は春人の背中をバンと叩いた。


「さすが…親友だな」


「うん」


二人は腕をガッシリ組んで笑い合った。
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