君がいた風景
春人は拓磨との会話を思い出しながら駅へ向かっていた。


途中で、春人はふと川の前で立ち止まった。


真奈美と出会った思い出の場所。


「真奈美さん…会いたい…」


春人は導かれるかのように、川沿いを進んで行った。


2人が出会った場所に近づくと、春人の胸に衝撃が走った。


白い肌に白いワンピース。薄茶色のさらさらの髪が穏やかな風に吹かれている。


その懐かしい風景に、思わず涙が出そうになった。


「真奈美さん…?」


さらに近づくと、その人は春人に気づいて口を開いた。


「わっ、びっくりした!へへ、来ちゃった」


懐かしい場所にいたその人は、真奈美ではなく…陽子だった。


「どうして…陽子さんがこんな所に?」


「山下さんが…ここにいるって教えてくれて…」


「君にはもう会わないって言ったはずだけど」


春人は冷たく言い捨てると、その場を引き返した。


「そんな…」


駅の方へ向かおうとした時、春人は陽子の言葉に違和感を感じた。


『山下さんが…教えてくれて…』


春人は哲也に、旅行に行くということしか言っていなかった。


「なんでここが…」


春人は陽子の方を振り返り、拓磨の言葉を思い出した。


『ハルくんの母さんは生きてる…』


春人は陽子を見つめた。


「まさか…まさか君は…」




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