タナトスの光
「実は、お前達へ隠していたことがあったんだ。」
私は覚悟を決めて、そう切り出した。
「お父さん、一ヶ月前に、会社をリストラされてな。せめて新しい職を見つけてから、言おうと思ってたんだが・・・。黙っていて、本当にすまん。」
私は小さく、頭を下げた。

どんな反応をされるだろうか。
最悪、もしかしたら。
色々な考えが、頭をめぐる。

それでも。
あんなに家族に、隠し通そうと考え。
悩んでいた頃よりは、断然気持ちが晴々としていた。

「知ってたわよ。」
妻の声が、私の耳に届いた。

驚いて、私が顔を上げると。

妻は腕組みをしながら。
「何年あなたの妻を、やってると思っているの?ここ一ヶ月、あなたの様子が変だったことくらい、とっくに気づいてたわよ。あなたが言ってくれるのを、ずっと待ってたの。あなたは知らないだろうけど、まとまったお金が、あなたの会社から、最近口座に振込まれてね。退職金なら、つじつまが合うでしょ。」

「あたしもお母さんから、それらしいことは聞いてたよ。そのときは、覚悟しといてって。」
そう言って、娘は微笑んだ。
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