タナトスの光
高一になって、初めてのデート。
本格的な。
でも軽い気持ちでの。
なんとなく相手に押し切られる形で。
ついついokをしてしまった、そんなデート。

夜景がきれいな高台の上。
車の中で、ふたりきり。

嫌な予感がしたときには、もう後の祭りで。

人が変わったように。
大学2年生。
有名私立大生って、言ってたっけ?
確か名前は、なんだったっけ?
それすらも、こんな状況では思い出すことさえ出来ない。

豹変した彼の熱い吐息が。
首筋に、なんども降りかかる。

破られたワンピースの間を、ゾッとするような冷たいなにかが這い回っている。

お気に入りだったのにな、このワンピ。

あまりの冷たさで、身体中が凍りつくような。
アザが出来そうなくらいの感触に。

あたしは抵抗するのをあきらめて、車の天井をボッーと眺めていた。

あたし、なにやってるんだろう?

気持ちが膨らんでくる。

このままで、いいの?
イヤだ。
こんな気持ちのままなんて、絶対にイヤだ。

あたしは車の天井を見つめたまま、助手席とドアの間に落ちていたポシェットを、左手でそっと拾い上げた。

中に入っている、コンパクトの位置を確かめると、乗りかかってきている、彼の背中へ両腕を回すかのように。
上手にそれを右手へと受け渡した。

左手を戻しながらそっと、助手席側のドアのロックを解除する。

そして右手のポシェットの中にあるコンパクトを、まるでメリケンサックのように握りしめて、彼の顔面中央に、渾身の力を込めて、なんどもなんども、くり出した。
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