タナトスの光
タクシーを降りると、自宅マンションの前。
安堵して、涙が出そうになる。

コンビニの店員さんの、奇異の眼差しに耐えながらも、あたしはなんとかタクシーを呼んでもらうことに成功した。

コンビニに、お客さんがいなかったこと。
タクシーのおじさんが、無口な人だったこと。

ただそれだけが、今のあたしにとっては、救いだった。

タクシーのおじさんにお金を支払って、風のようにマンションの中に走り込む。

エレベーターには乗らずに、階段を使って、一気に自宅のある五階まで到着。
マンションの住人には誰にも見られずに、自分の家の玄関まで、たどり着くことが出来た。

ポシェットから鍵を取り出す。
玄関のドアを開けると、中は真っ暗闇だった。

お母さん、今日も深夜まで仕事なんだ。

いつものことだから、驚かないけど。
でもなんとなく今は、不安な気持ち。

鍵をしっかり、かけてから。

あたしは急いで、脱衣所へ駆け込むと。
鏡を見ないようにしながら、ワンピを脱ぎ捨て、乱れたブラも下着も脱ぎ捨て、お風呂場へと入った。

熱いシャワーを頭から浴びる。

今さらになって、身体が震えてくる。

シャワーの水滴に混じって、何粒かの涙が、頬を伝って、こぼれ落ちた。
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