タナトスの光
さっきから電話が何度も鳴っている。
たぶん学校の担任の先生からだろう。

あれからあたしは、我に返ると。
あたふたしている先生をその場に残して、まるで逃げるかのように、家へと戻って来てしまっていた。

リビングのソファに横になって。
テーブルの上の果物と、その横に置いてある果物ナイフを見つめている。

なんにもやる気が起きない。

とても静かで、この世に独り、取り残されたような気がする。

ゆっくり起き上がって、お父さんの遺影がある部屋のほうを見てみた。

写真の中のお父さんは、いつでも優しい笑顔で笑っている。

ふいに。
お父さんの世界に、行きたくなった。

お母さんのことは大好きだし、感謝もしている。
でも。
でも。
こんな世界、もうイヤだ。
もう独りぼっちは、たくさんだ。

あたしはテーブルの上の果物ナイフを手に取ると、左手首にそっとあてがった。
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