タナトスの光
今日は給料日。
もうごまかし通すことは、出来ないだろう。

会社をクビになってから、約一ヶ月。
よくここまで、頑張ったものだ。
誰にも話さずに。
友人にも話さずに。

妻と娘には、話せずに。

クビになってからも。
以前と同じように。
自宅のマンションから通勤をして。
適当なところで、時間をつぶしてから、帰る。

図書館通いにも。
公園通いにも。
正直もう、飽きていた。

ハローワーク=職業安定所。
なにがハローでワークだ。

大学を卒業して、不器用ながらも。
まじめに勤務をし続けて、二十五年。

営業畑では、まだまだ通用するはずだ。

なのに。
受付のなにも知らない若造が。
「このご時世ですから、えり好みをしていても職は見つかりませんよ。年齢制限もありますしね。」

淡々と。
まるで魚をさばくように。
右から左への事務作業。
魚の痛みなんて、彼らは知るよしもない。

イヤイヤする仕事なんて、まっぴらだ。
せめて、そこにわずかでも。
希望が見出せる仕事がしたい。
いったいそれの、どこが悪いんだ。

プライドを捨てろ?
そうなのかもしれない。

目をつぶって。
死にもの狂いでしがみつけば。
へばりつけば。

あるいは今のこの状況からは、抜け出せるのかもしれない。
それでも私は。
その小さなプライドに、変に固執をしていた。
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