タナトスの光
女の子は話しをやめて、不思議そうな顔であたしのほうを見た。

「あらぁ?まだ生きてた系?」

あたしは果物ナイフを、テーブルの上にドンッと置いてから。

「まだ生きてます!」
そう言って、一息ついてから。

「あなたいったい誰?どこから入って来たの?」
出来るだけ落ち着きを払った声で、そう尋ねた。

「えぇ?あたしぃ?名乗る者のもんでもぉ、ないんだけどぉ。“タナトスの光”系?みたいなぁ?」

「タナトスの光?」
あたしが不思議そうに呟くと。

「そぉそぉ、まぁ、どこから来たかっつったらぁ。そこぉ?」
そう言って、彼女はあたしの胸を指差した。

あたしが自分の胸を見てから、再び彼女を見ると。
彼女は小さくうなずいた。

「それよりもぉ聞いてよぉ。お母さん、マジかっこよくなぁぃ?キャリアウーマン系なんだけどぉ、超憧れるぅ。」

唐突に、話しが変わる。
なんだか、ついていけない。

そんな風に思いながらも。
不思議と彼女の話しを聞くことで。
話すことで。
気持ちが楽になっているかのような。
あたしはそんな感じが、していた。

「そう、かな?あたしも素敵だとは思うけど、あまり家にいなくなっちゃったから。」

「お父さん、死んじゃった系だもんねぇ。」

「うん、お父さんがいなくなった分、頑張ってるのは分かってるし、尊敬もしてるんだけど。」

「ぶっちゃけ、寂しい系?」

あたしはうなずきもせず、首を振るわけでもなく。
お父さんの遺影のほうをそっと見た。
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