タナトスの光
「もう五年も経ってるから、受け容れてはいるんだけど。お父さんが生きてた頃は、楽しかったな、なんて。」

お父さんの遺影から顔を戻すと。
目の周りが、うるんできているのが自分でも分かった。

「お母さんとふたりで、夕食の準備をしながら、お父さんが帰って来るのを待ってたりして。お父さんが帰って来たら、三人でその日あったことを話しながら、食卓を囲んだり。」

涙を見られないように、あたしはうつむいた。

「ときにぃ、過去ってぇ。バリやばいくらぃ、幸せに思えるときってぇあるよねぇ。つぅか、お父さんがぁ、死んじゃったこと自体もぉ、もう思い出系?みたいなぁ?」

あたしはその言葉に、心がズキンと音を立てたのを感じた。

五年前。
あたしが小六のときのことだった。

朝、元気良く出かけて行ったまま。
帰って来たときには、別人のように変わり果て、動かなくなっていた、お父さんの姿。

周囲の大人は、見てはいけないと言ったけど、あたしはお父さんの最後の姿を、しっかりと目に焼きつけておきたかった。
交通事故で、無残な姿になった、お父さんの最後の姿を。
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