タナトスの光
あのとき。
言葉で表すのが、難しいくらいに。
お母さんとあたしは、とても悲しんで。
苦しんで。
そして、不安になった。

あたしはそれを知っていたはずなのに。
人の死が、その周囲にいる人々に。
取り残された人々に。
どれくらいの深い傷を残すのかを、あたしは経験していたはずなのに。

あたしがもし死んだら、今度はお母さんが、その思いをひとりきりで味わうことになるというのに。

あたしは、なんてバカなことをしようとしていたんだろう。

「ところでぇ。死んじゃう系?生きちゃう系?」

彼女が能天気な声で、あたしに尋ねる。
あたしは顔を上げると。

「目には見えないけど、お父さんは天国から、きっと見守ってくれているよね?この世界では、お母さんとふたりきりだけど、いつかまた食卓を囲んで、楽しく話しが出来るかな?」

彼女は少し、首をかしげると。
身軽な動きで、テレビの上に立ち上がった。

「あたしぃ、難しい話しはぁ、全然ダメ系でぇ。相手へのぉ思いやりもぉ、大切だとぉ思うけどぉ、ときにぃ家族だってぇ、言わないとぉ分からないことだらけぇ?みたいなぁ?どっちにしてもぉ、もう決まっちゃった系みたいだしぃ。そろそろぉ、あたしぃ行くねぇ、バイバイ!みたいなぁ?」

そう言うと同時に、彼女はあたしに向かって、その持っている大きな鎌を振り下ろした。
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