タナトスの光
置時計の秒針が進む。

狂ってしまえれば、楽になれるのに。
頑丈な僕の心は、壊れそうになりながらも、あと一歩のところで、とどまってしまって、狂おうにも狂えない。

でも、もしかしたら。
こんな状況でいられること自体のほうが、もうすでに、狂っている証なのかもしれない。

六年。

この薄暗い部屋の中で、もうそんなにも時を重ねたのか。

もう、いいじゃないか。
もう、充分じゃないか。

このままなにか分からない、なにかを待っていても、仕方がない。

ノソノソと、僕はベッドの横に置いてある台兼用の引き出しに近づくと、その中から、小さな巾着袋を取り出した。

母親が飲んでいることを知って。
その置き場所からバレないように失敬しては、少しずつ、少しずつ、貯めたもの。

僕は袋のしぼり口を開くと、左手にそれをザザーッと一気に移し出した。

何錠かが床に散らばって、コロコロと転がってどこかへといった。

左手一杯の睡眠薬。

生きることにも。
待つことにも、疲れ果てた僕は。

それを流し込もうと、左手を口に近づけていった。
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