タナトスの光
「死にますか?」

ふいに聞こえた声に、僕は顔を上げた。

閉ざされた扉の前で。
ゆったりとした黒いローブを着込んで、大きな鎌を持った男性が、こちらを見下ろして立っている。

「あなたは、誰ですか?」
自分でも、驚くほど冷静な言葉を発していた。

その男性は、僕と同じ目線になるように扉を背に、座り込むと。
「私は、“タナトスの光”と言います。」
落ち着き払った声で、そう言った。

どこか自分に似ているようで、不思議な感じがする。

でも、なんとなく分かる。
きっと、この世のものではないだろう。

あの世からのお迎え?
それとも僕が、正真正銘の狂気の世界に紛れ込んだということなのだろうか?

そんな僕の心を見透かしたように。
「残念ながら、近いようで違います。僕はあなたのそこからやって来ました。最後の砦、といったところでしょうか?」
そう言うと、男性は僕の胸を指差した。

僕が自分の胸を見てから、その男性のほうを見ると、その男性は小さくうなずいた。

「それはつまり、僕の心からやって来たということですか?」

男性はうなずきも、首を振ることもしない。

まぁいい。
他人?と話すのは、本当に久しぶりだ。

時間がある僕には、死ぬことはいつだって出来るのだから。

試してみるだけ、試してみよう。

僕はこの男性と、少しだけ会話をする気持ちになっていた。
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