タナトスの光
左手一杯の睡眠薬を、巾着袋に戻して。
左手に収まりきらなかった、何錠かの睡眠薬も拾って戻して。

僕はもう一度、その男性のほうを見た。
その男性も、僕のほうを見つめている。

そのまま、会話がなにもないまま。
三十分以上が経過した。

「いつまで、ここにいるつもりなんですか?」
こらえきれなくなって、僕が言葉を発した。

「あなたの心が、決まるまでです。」
その男性が答える。

「僕の心が、決まるまで?」

「はい、そうです。」

「僕の心は決まっていました。決まっていたのに、あなたが声をかけて、邪魔をしたんです。」

「残念ながら、それは違います。」

「それは、どういうことですか?」

男性はその問いには答えず、ただ僕を見つめている。

思わず目をそらすと。
僕は思いのたけを、ぶつけ始めた。
「僕はもう、疲れたんです。就職しても長続きをしなくて、両親にも迷惑をかけて。この世界では上手に生きていくことが出来ないんです。部屋に閉じこもったまま、なにかを待つようなふりをしながら、ただ単に本当は、自分を受け容れてくれない、外の世界が怖いだけなんです。」

まだ転がっていたのか。
拾いそこねた一錠の睡眠薬を、僕は拾い上げて、巾着袋に戻してから、続ける。

「友達も、あんなに仲が良かったはずなのに。こんな僕の状態を知ってからは、誰ひとりとして、僕に手を差し伸ばす人はいませんでした。それどころか逆に、みんな僕の側からいなくなってしまったんです。そのとき僕は、人間の本質を見たような気がしました。それからは、人間自体も怖くなっていったんです。」

そう言ってから、僕はその男性のほうを見て呟いた。
「僕は、どうしたらいいんですか?」
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