タナトスの光
「止めて欲しいんですかいな?」
「あ、いえ、そんな訳でも。」

なんとなく間の抜けた会話に。
全身の力が抜けていくような気がした。

「あのう、私。」
「リストラされましたんやろ?」
「えっ?なぜそれをご存知なんですか?」
「知ってまんがなぁ。仕事ですもん。」

そう言うと。
誇らしそうに、大きな鎌を持ち直した。

「大きくて、立派な鎌ですね。」
私がそう言うと。

男は嬉しそうに。
「専門用語では、“サイス”って言いまんがな。これを振り下ろすと、魂を奪うとか、とんでもない話しも、ぎょうさんありまっせ。」
「ぶ、物騒な話しですね。」
私が怯えた顔を見せると。

「心配せんでもええがなぁ。あくまでも噂でっせ、噂。」
「あの、ところで、あなたはいったい?」
おずおずと私が申し出ると。

「こりゃぁ、あいすんません。自己紹介がまだでしたなぁ。わての名は、“タナトスの光”って言うんですわ。まぁそういうことですわ。」
「ど、どういうことなんでしょうか?」
理解出来なさそうにしている、私の顔を見て。

タナトスの光さんは、困ったように小さく首を振った。
「あきません。男はそんなちっちゃなこと気にしたら。」
「は、はい。すみません。」
私はついつい、謝ってしまっていた。
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