みどりちゃんの初恋
若干腕の力を弱めてくれたヒロっちは「笠井」とあたしを呼ぶ。
返事をする代わりにあたしはヒロっちを見上げた。かちりと合った視線はあたしが反らしてしまったけれど。
「笠井」再び呼ばれたあたしは視線を上げることも声を出すことさえも出来ない。
だから、あたしはヒロっちのワイシャツの裾を掴んだ。
密着し過ぎてるからかな?心臓がバクバクうるさくてしょうがない。きっとヒロっちにも聞こえてる。
だってヒロっちの心臓の音も聞こえてるから。
「……ねえ」涙で擦れた声のあたしはヒロっちに視線を戻せた。
「ヒロっちも心臓バクバクいってるよ?」
あたしはヒロっちが好き。だからバクバクいってる。――じゃあ、ヒロっちは?
もしかして、あたしのことがす――
「ここまで走ってきたからだ」
――そうくる? 実は……っていう展開じゃないんですね。
ヒロっちに抱きしめられてる。その事実は嬉しいのに、どうしてこんなに苦しいの?
泣きたくないのに。頬を伝う涙は押さえきれなかった。
「――お願い。離して」