みどりちゃんの初恋
千紗や樹にバレないよう安堵のため息をもらした卓也は、みどりだけに優しい微笑みを浮かべる。
電話口で千紗に、息が上がってると言われて内心驚いたのは卓也のほうだった。
気付いたら、自分を真っ赤な瞳で睨み上げたあの小さな体を探して走っていた。彼女の嫌いなものを知っているから。でも、それだけじゃない。 あんなことを言うつもりじゃなかった。
まぶたが赤い。
悪かった。卓也が心の奥で謝ったのとほぼ同時。卓也の目の前に氷が浮かぶグラスが現れた。
「顔、にやけてますけど」
千紗からグラスを受け取った卓也は、お礼を言い冷たいお茶を一気に飲み干した。
「俺がにやけるわけないだろ。それより、俺は帰る」
「は? どうして帰るのよ。みどり、タクに謝りたいんじゃない?泣きながらだったから、何言ってるか分かんなかったけど。『ヒロっちに嫌われちゃった』とは言ってたわよ?」
目を見開いた卓也は寝ているみどりに視線を落とす。
俺が、いつ、こいつを嫌った……?
卓也はまだ気付いていない。自分が何に対して怒りを覚え、みどりにそれをぶつけてしまった原因――
「タクは、みどりと別れたいの?」
――ただのヤキモチだということに