みどりちゃんの初恋
◇◇◇
風呂から上がった卓也はバサバサと髪の毛を拭きながらリビングのドアを開けた。
リビングにみどりの姿が見えない、と気付いた卓也はこちらに背を向けてソファーに座る千紗に声をかけた。
「笠井はもう寝たのか」
「みどりって呼んであげたら?」
「は? 俺は笠井がもう寝――」
「だから。笠井、じゃなくて。 どうして?森 里美は下の名前で呼ぶのに、彼女は名字で呼ぶのよ」
それは千紗の声でもあり、みどりの声でもあった。 卓也は小さくため息をつき、でも、と思う。
俺だって笠井と同じことを考えてる。
「……笠井は部屋か」
「もう。どうしてみどりはタクが好きなのかホント不思議。私とタクだったら1週間も持たないわ」
呆れた様子の千紗は、「ここにいるわ」と隣を指差し立ち上がり欠伸を噛みしめる。
「まだ揺すれば起きるけど、抱っこで運んでもいいんじゃない?」
おやすみ、と卓也に背を向けた千紗はひらひらと手のひらを振った。
千紗が寝室に入ったのを見届けた卓也は、そっとソファーに近づく。
「……ったく」
ソファーには小さくなって寝息を立てるみどりがいた。