THE DEATH
惨状
ぐ…うぁ…
痛ぇ…っ…痛ぇよぉ…
部屋中に響き渡る悲鳴が、全ての物音を遮断していた。

「殺せっ、オレを殺して…っ!」

「頑張れ!これ飲んで…少しは痛みが和らぐはずだから」


陽の光も届ききらぬ薄暗い部屋、簡素なベッドの上で男がハねていた。

その腕をしっかりと両手で包みこみ、真摯に看病を続けるのは
小綺麗な顔に似合わぬ大剣を背負う、若い男である。

コクンと喉を鳴らし、ベッドにへばりついた病人が言った。

「………なぁ、となりのコが泣いてる。そっちに行ってやってくれ…」

自分は大丈夫だとは言わない、皆、わかっていた。
今、この国で急速に広まっている死病。
感染すれば、苦しんで死ぬ、それだけ。
末期症状に瞳が黒く変色することから【黒死病】と呼ばれた。

「…頑張って、生きることをあきらめないで…お願いします」

病人の汗を拭き取り男は外へ出た。本当だ、女の子が泣いている。行ってあげないと…


ブォー……ォー…
汽笛が鳴り、大きな船がタイリスの港に入ってきた。
大国、ジャド公国からの定期船である。伝染病騒ぎで定期船は制限されていたが、この船は特別である。
甲板には2つの影。異様な格好と言っていい…黒い鎧に過度の装飾。
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