夏の青 ・
「ちょいときみ!空はなぜこんなに広いか知ってるかい!」
堤防から見上げる空が
視界をすべて青で覆う。
あたしは両手を大きく広げて後ろを歩くチヨを見た。
「………それ、
私に言ってんの?」
そう言ったチヨは、眉をひそめ あからさまに迷惑そうだった。
チヨのその表情あたし苦手。
こわいから。
「ほ、他に誰がいるの」
「今すれ違った小学生」
チラッと小学生のほうを見ると、怯えるように走っていってしまった。
あたしたちはそれを静かに見送る。通報はするんじゃないよ少年。
「空はさあ」
少年のランドセルは
鮮やかな水色だった。
「あたしたちを
飲み込もうとしてると思う」
「空が?」
「そう。いま不条理ばかりの世の中は人類滅亡の危機に瀕してるわけだよ」
「大げさだねえ」
チヨは薄ら笑いを浮かべつつおもむろにキャメルの箱を取りだし、火をつけた。
制服に煙草はカッコ悪すぎるよチヨ…なんて思っても言えない。慣れたけど。
制服に煙草って、雪の日にサクランボの箱詰めを抱えて歩くくらい変な気がする。自分で言ってて意味が分からない。
「大げさなもんか!いまに人という人が空に吸い込まれて、目を開いても、閉じても、青だけの世界になる。絶対。」