境界
「嘘だろ。何冗談言ってるんだ。」
「嘘じゃないの。本当なの。
だから、苦しいの。
だから、死にたいの。
わかって、この気持ち。」
「いきなり言われてもわかるわけないだろ。」
「怒らないって、言ったじゃないの。」
「恋人から浮気をしていると言われて、
怒らない男がどこにいる。」
「怒るんなら、もう話さない。」
勝手なことを言う女だと思いながら、
浮気相手が気になったため、平静を装おって、
「怒らないと約束するから、話を続けて。」
内心は穏やかでなかったが、約束するしかなかった。
「私の浮気相手には、奥さんも子供もいるの。」
「それって…。」
「そう、不倫なの。しかも、相手は近くに住んでいるの。」
「名前は榎坂吾郎って、言うの。愛香の同級生の父親でもあるの。」
「だからって、殺してって、どういうこと。
しかも、由起子さんにも、あんなメールを送るなんて。」
「何のこと?」
「覚えてないの?由起子さんにも、殺してとメールを出したんだよ。」
「全く覚えてない。どうしたんだろ?記憶がない。自分が恐いよ。」
「本当に覚えてないの?幸子、自分の携帯を見てみたら?」
「うわぁー」と泣き叫びながら、携帯を僕に差し出した。
携帯を見ると、「殺して」という文字が書かれたメールが、
いろんな人に送られた履歴が残っていた。
「私、自分が恐い、助けて、お願いだから助けて。」
考えてみれば、それまでにも奇行はあった。