境界

吾郎の常識感

 その後、幸子たちは、週末には必ず会うことになる。
 吾郎は結婚をしている身ながら、
何かと理由を見つけては、幸子と会う時間を作った。
 当初、吾郎は軽い気持ちだったが、
幸子と会う回数を重ねるたび、幸子にひかれていった。

 智美の母の法事がある日だった。
 不謹慎だが、吾郎にとっては、都合よかった。
 智美が実家に帰るため、久しぶりにまる一日自由になれた。
 
 その日は、神戸までドライブに出かけ、
日が暮れる頃、モザイクの観覧車に乗った。
 実は、吾郎は付き合った女性とは必ずここに来ていた。
 
 そして、ある儀式をすることになっている。
 その儀式とは、観覧車の最上部で、キスをすること。
 特に理由はないが、吾郎の中では大切なイベントとなっている。
 当然、幸子とも観覧車の中でキスをした。
 その後、いつものように、ホテルに向かった。

 幸子は、苦しんでいた。

「もう、こんな関係をやめましょ。」

「急に、何を言い出すんだ。」

「やっぱり、こんな関係はよくないと思う。」

「吾郎さんには、奥さんも子供がいる。上の子は、私の妹の愛香と同級生だし…。
それに私には彼氏がいるわ。」

「そんなことは、最初からわかっていたことじゃないか。俺は絶対イヤだからな。」
 
 幸子も別れたいわけではなかった。
 ただ、自分自身の感情をコントロールできなくなってきていた。
 自分でも、どうしたいのか、わからないというのが実情だった。

< 20 / 41 >

この作品をシェア

pagetop