境界

甘えん坊

 幸子は、本当は誰よりも人に甘えたいと思っていた。
 
 しかし、家庭環境がそうはさせてくれなかった。
 幸子は、人付き合いがうまくいかなくなると、自分の生い立ちを恨み、家庭環境や父親のせいにしてきた。
 自己責任の意識が薄く、何でも他のせいにしてしまうところがあった。
 その結果、人間関係がうまくいかないという悪循環になっていた。
 そして、自分自身に自信が持てず、人を信用することもできなかった。
 他人に対してだけでなく、父親や母親のことも信用できなかった。
 甘えたくても、甘えさせてもらえなかった体験が、そうさせていた。
 
 僕自身気づいていなかったが、幸子は人と付き合い始めると、甘えさせてくれる人かどうかを試すところがあった。
 そのことは、幸子自身も気づいていなかっただろう。
 つまり、甘えようとした時に、父親のようにかまってもらえず、逃げられるのではという不安が常にある。
 そのため、この人は甘えても、しっかり受け止めてくれる人かどうかを知らず知らずのうちに確認してしまう。
 最初は少しのわがままを言い、それを叶えてもらえると、次はもう少しプラスαしたわがままを言う。
 そして、そのハードルが徐々に上がっていくのである。
 最も、当の本人は全くそんな意識はない。
 
 これらも境界型人格障害の特徴である。
 
 しかし、これ程度だと本人が病気という自覚もないし、周囲の人たちも病気とは認識しないだろう。
 境界例的傾向が強いというレベルである。
 それが、あることが原因で、発症してしまったのである。




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