くだらない話

「私あなたの背中とっても好きよ」

女はそう言う

「大きくて暖かくて優しいの。
まるであなたそのものよ」



いつの間にか涙も乾いて
いつものように穏やかな笑顔だった


少し安心した僕は自販機に向かい
コーヒーと紅茶花伝を買った



僕はコーヒーを少しずつすする
女は紅茶花伝を飲んでいる



僕達は背中を合わせてじっと月を見た

今日は綺麗な三日月だった




三日月が雲に隠れると
女はひとつ息をついて
また背中に顔をうずめた



「ありがとうね。いつもいつも。」

言うと女は立ち上がって
手をふって小さな声でまたねと言った




彼女の後ろ姿を見送ると

僕はポケットに手をつっこんで
三日月を見上げた




「あなたの背中が好き」
きっとそれは女の心からの本音で

だから僕は彼氏じゃないんだろう

でもそれで良い気がしたんだ
今日はとても綺麗な三日月だから。


< 2 / 16 >

この作品をシェア

pagetop