明日、お兄ちゃんが結婚します


――ピチャン。

水が落ちる音に反応して反射的に身をよじった。


夕方から振っていた強い雨がやんで、屋根から水がしたたり落ちている。

目の前のいとしい人は目を覚ましていない。



よかった。あたしはほっと息をつく。

もれたため息の音が静かな部屋に響いて。なんか切ない。





「……ごめんね」





あたしはその人に小さくささやくと顔をそっと近づけた。

触れるだけ。

ただそれだけ。


この人があたしの近くにいる間だけ見させてほしい。


少しだけ甘い夢に酔わせてほしいの。


お願い、目を覚まさないで。


あたしはそう心の中で願う。




やわらかい唇にあたしの唇が重なった。

少し吸い付くような音が聞こえる。



犯してしまった罪。


誰もしらない秘密。



知られてはいけない。

言ってはいけない。


決してかなうことのない恋。



だって。


だってこの人はあたしの『お兄ちゃん』だから。
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