明日、お兄ちゃんが結婚します
「りぃ、朝だよ」
目が覚めるといつも見慣れた天井。
お兄ちゃんの部屋にこっそり夜中に忍び込んでは密会を果たし、そして自分の部屋に戻っていく。
これがあたしの習慣。
寝ている間だけ恋人同士の気分を味わえる。
むなしいけれど愛しい瞬間。
誰にもいえないあたしの秘密。
「りぃ、遅刻するぞ。起きないと朝ごはんさめてしまうだろ」
もっとこの優しい声に酔いしれていたい。
だけど現実はそうもいかなくて。
あたしは重たい体を起こすとベッドから起き上がり、冷たい床に足を下ろした。
「りぃ、今日は何時に終わる?」
「んー今日は5時くらいかなぁ。ちょっとよりたいところあるからもう少し遅くなると思う」
リビングで二人きりの朝食をとる。
これがあたしたちの日課。
りぃ。本名は川瀬理沙。
りぃというのは小さいころお兄ちゃんがつけてくれたあだ名だ。
「今日は春菜がくるからな」
その言葉にあたしの心は奈落の底に突き落とされてしまう。
だけどそんな影をにおわさないようににっこり微笑む。
そんなお兄ちゃんの名前は川瀬凌。
ちゃんと大学を出た立派な社会人だ。
春菜というのはお兄ちゃんの婚約者。
そう、お兄ちゃんは来月結婚が決まっている。
結婚して、この家を出て行く。