テアトロ・ド・ペラの憂鬱
そんなピピの近距離でアウリッキオ社のチーズスライスを摘まむのは素足の彼女。
「それ、仕事に行ったんじゃないの。…ん、さすがアウリッキオ」
有名チーズメーカーのそれに舌鼓を打つ。
「それくれ」
ピピが彼女の唇に向かってあーんと口を開ける。
長く白味がかった睫毛の縁がイヤらしく瞬いた。
「いぇーいっ!いきなりポッキィゲェーム!!」
そんなピピに、彼女もテンションを上げてそう口にしつつ、ピピの口にチーズ味のベェゼを食らわせ、素早く手を振りかざした。
「ぐへっ」
ベェゼを味わう暇すらなく右頬を殴られたピピは乗り上げていたビリヤード台から吹っ飛ぶ。
それを完全に無視して、ガフィアーノは早々にパニーニふたつを食し終え、アーモンド入りのヌガーを半分にした。
「休日に仕事か。憐れだ」
「…僕等にしてみればまあ、珍しいことじゃないけれど、皆が休みの日にひとりだけ仕事っていうのもね」
半分のヌガーを受け取ったボウラーは、口先だけの同情を乗せた肩を竦めて見せた。
「しかもよぉ、なくなってたのが壁に掛けてあったボーガンだぜ」