テアトロ・ド・ペラの憂鬱







大抵は「カーラ」と呼ばれているが、ベッドの上やバカンスの時なんかは「パパ」とか「ドゥラ」とか適当に呼ばれている。

イタリアーノが、皆いい加減なわけではない。
こいつらがいい加減なのだと彼はよく知っていた。

つまり彼は、この変人の巣窟、「テアトロ・ド・ペラ」に住む怪人達のボスであり父親であり兄であり、つまり彼も充分な変人であって怪人なのだった。


しかし見た目ばかりはいい。

四十手前にして若々しく艶やかな漆黒の髪はよく風に靡き、鋭い眼光を包む長く濃い睫毛はイタリア人らしさが滲む。

端正な顔立ちはどこまでもパーフェクトで、個性的なパーツは主張し合うこともなく、ひとつの顔にうまく調和して纏まっていた。

大人の男の魅力、そして触れば切れそうな雰囲気は、ずば抜けて強烈。





「パパ、エスプレッソ入ったよ」

人数分のカップを手に、アコがカーラ専用のカップを差し出す。

冒頭からかなり時間が経ってしまったが、彼女の紹介でもしようか。



「なぁなぁ、トランプしようぜ」

ボウラーがどこから持ち出したのか、数字も絵柄も余白も、全て真っ黒なお飾りのトランプが顔を出した。







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