テアトロ・ド・ペラの憂鬱
―――「Bacchante」。
バッカンテ。
慎みのない女性、大騒ぎする女性。
を、意味する。
「お前なんか死んじまえ!このくそバッカンテ!!」
ガターンッ!ガタ、ドカッ!
涙が滲むような悲鳴とけたたましい物音が三階から響き渡った。
ヒステリックで言葉遣いの悪いそれは明らかにピピのもの。
で、「バッカンテ」ときたら相手は。
「はあ!?あんたもう一回言ってみなさいよ!今すぐそのイカれたドタマぶち抜いて死体にしてやっから!」
ガシャァアアンッ、ガタッ、ドタンッ。
ピピに負けず劣らずの悲鳴じみた怒声。
―――通称、ア(ン)コ。
ここ、イタリアの某都市の路地裏にあるアパルト、「テアトロ・ド・ペラ」に住む紅一点。
「…今日は特に機嫌が悪いね」
二階にあるボウラーの部屋で、ガフィアーノが小さく呟いた。
彼の手にはボウラーの所有するポルノ雑誌。
表紙には、夏に向けて肌を健康的に焼いた面積の少ない水着姿の女優。
勿論、いやらしいほうの女優。