テアトロ・ド・ペラの憂鬱
下手に間に入れば、巻き込まれて、不機嫌の矛先がこちらに向けられる可能性がある。
だからガフィアーノもボウラーもカーラも、そしてセッタすら仲裁はしない。
構わなくてもどうせ自然に静かになる。
「……」
カシャン。
これが最後、と言うように、元気のない小さな音が響いた。
「静かになったね」
ボウラーがキャンディを舐めながら呟いた。
すぐにどすどすと乱暴に階段を降りてくるピピの足音が響く。
「あんのクソアマっ!ぎったぎたの脂肪を絞って生ゴミで出してやる!」
やはり酷い言葉遣いでピピは叫んだ。
それが聞こえただろう上階のアコは、随分と静かだ。
いつもならまた物が飛んできそうなのに――それを予想していたらしいピピも、フルスイングを空振ったような顔をした。
ガフィアーノもボウラーも、窺うように天井を見上げる。
一階に居たカーラもセッタもチェスの手を止めた。
「…アコ、なにかあったか?」
扉を開けようとしたら、先程の騒ぎで蝶番が外れたらしい。
おおよそ水平とは言えなくなったくすんだ淡い水色の扉が、ひとつの蝶番だけで支えられ、キィ、キィ、と音を立ててぶら下がっていた。