テアトロ・ド・ペラの憂鬱





下手に間に入れば、巻き込まれて、不機嫌の矛先がこちらに向けられる可能性がある。
だからガフィアーノもボウラーもカーラも、そしてセッタすら仲裁はしない。

構わなくてもどうせ自然に静かになる。



「……」

カシャン。

これが最後、と言うように、元気のない小さな音が響いた。


「静かになったね」

ボウラーがキャンディを舐めながら呟いた。
すぐにどすどすと乱暴に階段を降りてくるピピの足音が響く。

「あんのクソアマっ!ぎったぎたの脂肪を絞って生ゴミで出してやる!」

やはり酷い言葉遣いでピピは叫んだ。
それが聞こえただろう上階のアコは、随分と静かだ。


いつもならまた物が飛んできそうなのに――それを予想していたらしいピピも、フルスイングを空振ったような顔をした。

ガフィアーノもボウラーも、窺うように天井を見上げる。

一階に居たカーラもセッタもチェスの手を止めた。










「…アコ、なにかあったか?」

扉を開けようとしたら、先程の騒ぎで蝶番が外れたらしい。

おおよそ水平とは言えなくなったくすんだ淡い水色の扉が、ひとつの蝶番だけで支えられ、キィ、キィ、と音を立ててぶら下がっていた。






< 26 / 80 >

この作品をシェア

pagetop