テアトロ・ド・ペラの憂鬱
いつもいつも長い前髪を額の少し上でくるくると巻いているので、「アコ」と呼ばれる前は「う○こ頭」と呼ばれたりしていたが、当然それを口にする者には彼女自身から制裁が下された。
そんな彼女の眼は随分と大きく、数は少ないが長い睫毛は愛らしく見えないこともない。
素っぴんの肌にはうっすらとしたそばかすが目立つ。
赤毛のアンのようなそれは、彼女のちょっとした悩みだった。
あぁ今は、そんなことはどうでもいい。
「昨日の仕事で、なにかあったのか?」
カーラの長く繊細な、けれど節くれだったそれが躊躇いなくジュリエッタの頭に触れた。
「ジュリエ…」
「やめて」
カーラがもう一度名前を呼ぼうとした瞬間、弾かれたように顔を上げたジュリエッタ――アコの悲鳴じみた懇願。
ばちりと開いている瞳は涙を堪えているからか、充血してまるで施設に入れられた精神病患者だ。
じゅくじゅくに腐敗したような目尻は、ひくひくと痙攣してカーラを睨む。
「…やめて、カーラ。その名前で、今は呼ばないで」
彼女がジュリエッタと呼ばれていた時代。