テアトロ・ド・ペラの憂鬱
端から見れば、明らかに恋人同士だけれど彼女達がそうじゃないということはご近所はみんな知っている。
彼女達はもうすぐ見えてくるアパルトマンの住人。
クレメリーアから大股で七歩、煉瓦で作られた七階建てのアパルトマン。
赤く錆びた扉がいつだってマルツォの憂鬱。
「テアトロ・ド・ペラ」。
ローマにある有名なオペラ劇場「Il teatro d'Opera」となにか関係があるのか、とか、誰がその名を付けたのか、など、近隣の住人は誰も知らなかったし、知ろうとも思わなかった。
何故ならクレメリーアから七歩の「テアトロ・ド・ペラ」は、変人の棲み家だから。
たまに流れてくる潮風に当てられて、対処もしていない錆びた鉄製のパイプ階段。
ザリザリとヒールが鳴る。
紫の男はたたたっと五段しかない階段を駆け上がって、赤いヒールをエスコートするように赤い扉を開けた。
「グラッツェ。ただいまー」
やる気なく発せられた礼と帰還を知らせる女の声が室内に伸びる。
紫は荷物を手にしたままたかたかと廊下の右側にある階段を駆け上がってしまった。
どうせコープで買ったポルノでも見るのだろう。